先日 どこで最期を迎えるか?お家or施設or病院? 最期を迎える場所についての話をしました。
よくぽっくり死にたいという話を聞きますが、なかなかないんですよ
関連して、病死、不自然死と医師の関わり、自死についての話になります
医学的な死体についての話もあるので、気分が悪い方は飛ばして下さい。
今回は死ぬこと、自死について、死に関わる医師の仕事などおおざっぱなことを知りたい人向けです。
看取るのが多い仕事とは?
人間の死ぬところを1番多くみる、看取るのは医療者、特に医師や看護師です。お坊さん、葬儀社さんは亡くなられた後ですので、生前と死をみるというとやはり医療者です。
これまで私も患者さんの看取りを何度もして、死亡診断書を記入してきました。その方の最期の書類ですので書くときはいつも誤字やミスのないように緊張した気持ちで書いています。
その看てきた中でも大往生だった、本人が眠ったように亡くなったという患者さんはお目にかかることが少なかったのです。
死亡診断書は死亡届と1枚つづりになっています
親族が亡くなれた際に死亡診断書を初めて見るかたが大半ですよね。ここで実際の診断書を見ておきましょう。
厚生労働省の死亡診断書マニュアル( https://www.mhlw.go.jp/toukei/manual/dl/manual_r03.pdf )からコピーしました。
死亡診断書(死体検案書)とは人間の死亡を医学的・法律的に証明する。死亡診断書(死体検案書)は、人の死亡に関する厳粛な医学的・法律的証明であり、死亡者本人の死亡に至るまでの過程を可能な限り詳細に論理的に表すものです。したがって、死亡診断書(死体検案書)の作成に当たっては、死亡に関する医学的、客観的な事実を正確に記入します。
しhttps://www.mhlw.go.jp/toukei/manual/dl/manual_r03.pdf
そして当事者としては身近な方が亡くなってあわただしいところですが死亡診断書はコピーをとること!理由は下記です
死亡診断書は、コピーを取っておくと便利です。枚数としては10枚程あると安心です。
また、一度役所に提出した死亡診断書(死亡届)の原本は返却してもらえないので注意しましょう。
死亡診断書のコピーが必要になる理由としては、生命保険や銀行口座、遺族年金などの手続きで「死亡の事実が確認できる書類」の提出が求められるからです。そのため提出前には、コピーを取っておきましょう。
https://www.i-sozoku.com/記事より
死人に口なし 遺書は本当のことを書いているのか?
自分で死を選んでニュースになる有名人がいますが、一般の方の場合はひっそりと、身寄りがいない方もいるでしょう。遺書が遺っていたとしても、人間恥をかきたくない気持ちから、当たり障りのない、恰好をつけた文書になっているのでは?死人に口なし その人の本意は伝わるか正直わからず、遺された人々は結局のところ割り切れない気持ちになります。
また推理小説の読みすぎかもしれませんが、本当は自分の意思ではなかったり、他人の関与があったり、犯罪的な理由が隠されている場合には死ぬことで自分の代弁者はいないので真相がわからなくなってしまいます。
医師として病死や不自然死を見てきました
これまで医師として病死や、少ないですが不自然死を見てきました。
入院病棟では、そろそろ亡くなられると予想がついている場合はご家族に伝えて、家族も心構えが多少はできます。その予想通りに旅立たれる方もいれば、そうでない場合もあります。
また、ぽっくりと急に亡くなられる場合には平均寿命は越していたけれども急だったなと主治医としても思いますし、家族もびっくりです。そう、いつ最後を迎えるかは所詮はわからない方が多いのです。
不自然死については医学部の頃に法医学の実習の1つとして東京監察医務院を訪れ( https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kansatsu/index.html )、解剖の様子を見学室から窓越しに見学したことがあります。
東京監察医務院の役割は?
昭和23年3月に開院して以来、死体解剖保存法第8条に基づいて東京都23区内で発生したすべての不自然死(死因不明の急性死や事故死など)について、死体の検案及び解剖を行いその死因を明らかにする仕事をしています。
その見学の際には、溺死体のご遺体がありましたが発見まで時間がたっていたのでしょう。体が膨らみ、変色して、生前の様子が全くわかりませんでした。水死は事故でも、自死でも嫌なものです。身内だったらと思うとやるせない気持ちになります。
監察医制度は限られた都市のみ。漫画、ドラマ化されました。
監察医務院の話のついでになりますが、監察医は漫画やドラマを通してどんな仕事か一般に知られるようになったのではと思います。
1998年にきらきらひかるという監察医が主役(深津絵里さんが主役)のドラマが放映されていて、自分も当時そのドラマを見て仕事に興味を持ちました。原作の漫画を紹介します。
最近といっていいかはわかりませんが、2019年に監察医あさがお(主役:上野樹里さん)がドラマになっています。こちらも原作の漫画があり紹介します。
4都市以外には監察医制度はない
初期研修医2年目に新潟県で地域医療の研修をしたときには、林の中での縊死された方の検案があり、地域の診療所の医師に同行しました。ご遺体はやせておられて、なぜ自死を選んだかなどの背景はわかりませんが、首の縊死の跡を見て、本人の孤独さを思い遣りました。
監察医制度がない場合は犯罪性があると警察が判断した場合は大学病院の法医学教室で司法解剖がされ、それ以外は死因が不明でも解剖されず、協力の臨床医=警察医により検案が行われてます。
事件性の判断には法医学の力がある
ドラマのようなことはほとんどありませんが、最近4歳の女の子が中毒死した痛ましいニュースがありました(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240214/k10014357701000.html )。司法解剖の結果判明しており、事件性やその原因がわかり、なんとも可哀そうですが死因を究明できた点では、そのお子さんも浮かばれたと思います。
警視庁が司法解剖をしたところ、有害な化学物質で、車のエンジンの凍結を防ぐ不凍液などに含まれる成分「エチレングリコール」や抗うつ薬の成分「オランザピン」が検出され、警視庁はこれらを摂取させられた疑いがあるとして捜査を始めました。
NHKニュース
自死を選ぶ医師は慣れない職場、NOといえない職場環境も原因になる
また医者の中でも過労、もしくは対人関係などで悩んで出勤ができなくなったり、うつ病の発症、また自死に至る場合もあります。
自分が若いころに同じ病院で勤務していた初期研修医の先生が自死した、というときには病院全体で大騒動となりました。過労よりもパートナーとの関係で悩みが大きかったようですが、前日までいつも通りに勤務しており、何かできなかったのか?と周囲は悩みました。ただ初期研修医はローテーションをしていくので慣れない病棟業務で疲れるのはあったと思います。職場に定着しない分、本音を話せる人間関係は薄いかもしれません。
2022年の医師の過労死自殺のニュース(https://www.sankei.com/article/20231008-VZH2EW7U7VNPXFPJRLIRAB67KM/)も痛ましいことです。
「限界です」。2022年5月、26歳の若手医師が遺書をつづり、過労自殺した。労働基準監督署の認定では直前1カ月の時間外労働は200時間を超え、連続勤務は100日に達した。
産経新聞
過労状態、超過勤務で、睡眠不足も合わさり、正常に考えることもできなくなっていたのだと思います。こんな病院辞めてしまえばよかったんだ!というのは簡単でも担当患者さん、自分の業績や専門医取得のことで別の病院へは変われなかったのか?でもこんな過労状態であるとは周りは気づいていたと思うのですよ。
自死を考える人には、跡に遺された人がどうなるのか、どう思うのかまで考えて、踏みとどまってほしい、だれでもいいので相談してほしいと思います。特に有名人だと、家族や友人が報道関係に追い回されて通常の生活の危ぶまれます。親戚まで身内に自死の方がいると結婚相手の家族から敬遠されることもあります。生きててなんぼのものです。
以前病院でアンケートを集計したときに、職場内でいじめやモラハラを受けたときの対応として、上司に相談するケースもありましたが、何もしないで過ごしている方が多かったことに驚きました。我慢の積み重ねは悪い心身へ影響することでしょう。
ぽっくり大往生希望!ぽっくり寺もある
先生、ワシぽっくりと逝きたいよ~!
う~ん、理想ですね~
でも、ぽっくり逝くのって難しいんですよ~~
さて、高齢者の方には「ぽっくりいければ最高だ!」と豪語するような方がいますが、現実としてぽっくり苦しみもなく逝くのは希少なので、そう考えないように諭したりしてしまっています。
とくに若くて不健康、自分の生活を顧みない方には、「ぽっくり大往生はめったにないです。このままいくと60歳くらいで心筋梗塞や脳梗塞になってベットの上で動けない生活をおくる可能性が高いですよ。今から生活を見直して、そうならないようにしませんか?」と言ってきました。
ただ突然のぽっくり大往生は周りにとってはびっくりでお別れをいう時間もなくて残念に思います。
ちなみに「ぽっくり逝ける」祈願をするぽっくり寺が全国各地にあります(いったことはありません)。が、根拠は乏しいのでお勧めしません。→https://anshins.or.jp/?p=1209
健康寿命以降を人為的に延ばす医療行為
日常生活に制限のない期間(健康寿命)は、令和元年時点で男性が72.68年、女性が75.38年となっており、それぞれ平成22年と比べて延びている(平成22年→令和元年:男性2.26年、女性1.76年)。さらに、同期間における健康寿命の延びは、平均寿命の延び(平成22年→令和元年:男性1.86年、女性1.15年)を上回っている。
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/html/gaiyou/s1_2.html
人間の平均寿命、特に健康寿命と平均寿命の差が医療の介入で延ばされています。例えば、食事がとれなくなったらだんだん脱水になって亡くなりますが、点滴や経鼻経管栄養(鼻から胃に管を入れて、栄養剤を投与する)、胃瘻の場合には、生命維持に十分な水分と栄養が行くので生き延びるのです。入院中は心電図や酸素飽和度をモニターできるので危ない場合には薬剤治療ですぐに対応ができます。
どういう最期がいいのか、延命治療をどうしたいか、を親族が決めるのは難しいです。ほとんどの人は誰かが亡くなるのを冷静にみることができないからです。もっと生きてほしいと願ったり、これまでありがとうとお礼を言ったり。できるだけ生きていてほしいと思うのは当然の感情です。もちろん、異論もあると思いますが。
入院中の患者さんで朝ごはんは全部食べれていたけれども、その2時間後に呼吸をしていなかった。亡くなったとういケースも高齢者では散見されます。心臓になにか起きたのかもしれませんが、立派な大往生だと思います。最後のお顔が安らかであれば素晴らしいことだと思います。
旅立つのは一人です
家族に囲まれて「おじいちゃーん」と呼ばれながら息を引き取る、というドラマのようなシーンはなかなかありません。病院では血圧低下や呼吸状態が悪くてご家族をお呼びしても、本人は家族がいるのがわかるのか状態を持ち直して、家族が帰って家に着いたころに力尽きるというケースがよくあります。
以前 どこで最期を迎えるか?お家or施設or病院? の中で紹介した さいごはおうちで という漫画の著者である永井康徳さんの言葉が表していると思い引用させてもらいます。
「亡くなる時に一番大切なのは、その瞬間を見届けることではなく、本人が楽に逝けること」
https://toyokeizai.net/articles/-/451196?display=b
楽に逝けること これが難しいんですよ
医師としては患者さんの最期のお顔が穏やかであればよいですし、意識がなくても声は聴こえているといいますから自分でも家族さんにも面会に来てもらって、たくさん声をかけてくださいね~とお話しています。