医師偏在の対策とは?都市部への偏りと地方での医師不足問題

先日、厚生労働大臣が医師の都市部への偏在への対策で「地域ごとに医師数の割り当てを考える」という発言をしていました。この考え方は現場を知らない安易な考え方だと思います。

というのもこの発言は「医師になりたい=どの地域でも医師として働きたい」という考えが前提になっていますが、果たしてどの地域でも、地域に限定して働きたいという医師は多いのでしょうか?

今回は医師の在り方、医師偏在となってしまう現状についての話になります。この辺りに興味がある方向けです。

日本で医師になるには?

日本で医師になるには①医学部で6年学び、医学部を卒後する ②医師国家試験に合格する ③臨床研修制度で2年間初期研修を行い、終了証をもらう ④各専門領域で専門医の後期研修を行う ④は必須ではありませんが、通常病院で働く医師となるには①~③の行程が必要となります。医学部に現役合格して資格取得までスムーズにいく場合には24歳で初期研修医が始まります。

医師は自分の専門をどう決めたのか? 腎臓内科編 に④までについての流れを記載させてもらっています。

都市部への偏在対策では専門医制度でシーリングといって都市部での医師の人数の規定が決められてきています。以前はここで働きたいという希望と病院側のこの医師を勤務させたいという希望がマッチすると働くことができたのですが、今では地域での制限が多少かかってきています。

このあたりのことは、進路に悩む女医さんへ:大学の医局に入局すること 子育て応援隊はいますか?シッター、病児保育についてもの「都市部では希望通りに入局や就職できないこともある」に記載させてもっていますので参照ください。

日本で型どおりに医師になるのか?

最近は③(初期臨床研修)まで終了してから、美容系のクリニックへ行ったり、臨床の医師以外の仕事をしたり、と④の研修をしない医師も出てきています。それもいやいやではなく、自ら進んで選択し新規開拓しているドクターたちです。

また日本の人口減少、高齢化からは医療全体の発展としては日本以外に目を向け、海外で医師を目指す人たちも今後増加するのではないでしょうか?

40代の同級生の進路は?

自分と同級生の進路を振り返ってみます

20代半ば:③の段階で自分の出身大学で研修をする、それ以外で研修するの2択。研修場所は大学病院よりも手技が多い市中病院が人気が高く、自分の地元へ戻る選択をした同期が2割ほどいました。(自分は市中病院で研修後、出身大学へ戻り腎臓内科研修をしました)

30代:専門医を取得後に一般病院への就職、開業を選択、親の後を継ぐ、大学にそのままいて研究者を選択する、自分や配偶者の海外へ研究留学に2~3年行く、30代後半以降は地元に戻る同期もまた出てきます。(自分は医局の関連病院を回ったり、大学にいたりしました)

40代:いまの自分に該当します。同期では一般病院へ就職、検診バイトなどフリーター、開業や親の後を継ぐ+自分や家族の病気でマイペースに出来る病院勤務へ移行など

地域医療に携わっているのは地元の病院へ戻って働いているという場合です

そもそも医師を志す理由は?

医師を志す理由として①親の後を継ぐために医師になる ②医師という職業自体への憧れ ③勉強ができつぶしが利く職業なので医師となる 大きく分けると3パターンがあると思います。このうち①②は医師として勤務していく可能性が高いのですが、③の場合は医師の分野以外にも目を向ける場合があります 

地方での勤務は地元が近い場合にはその地域医療を担う意気込みがあると思いますが、全く関連がない場所の場合はやる気も熱意もないまま規定の勤務期間が過ぎると戻ってしまう、診療も最低限でおなざりになるかもしれません。

ではどうしたらよいか?→若いころからの地域医療体験の必要性

医学部入学当初から地域医療、僻地医療に携わりたい!という学生は皆無に近いと思います。

となると、その場を知っていく必要があります。具体的には地方や僻地勤務については医学生や初期研修医の時期に一定期間現場を見せておくのがよいと思います。

まだ専門や将来を決めないうちで柔軟な考えを持っている若者に、この地域はこんな問題があって、こんな患者さんがいるんだよ、週末は自然に触れ合いにいける!と伝えておくのです。

私は新潟での初期研修の地域医療で勤務させていただきました。詳細はこちら→地域医療とお米と只見線 地域医療研修はいまでも医者としての糧です!(初期研修医時代)

地元でもなんでもありませんが、現地の方やスタッフが気さくで第3の故郷と思っているくらいです。SOSがあった場合に家庭がなければの話ですが1年ほどは手伝いに行けると思います。ただ骨をうずめるまでいるというのは不可能です。

だんだんと足かせが 家族、病気と・・・

結婚自体は問題ないですがもし地方勤務で家族と別居になってしまうとそれこそ家庭問題になります。またお子さんが小さいうちは自然に囲まれてよいかもしれませんが、小学校、中学校と進むと、過疎地域では教育面が心配です。今は簡単に行ける子どもの習い事も難しくなります。

そして40代で病気になってからは自分の健康ありきになるので、自分の病気を診療してもらう病院も近くにないと・・・となりますます地域医療からは遠ざかっていきます。

また親も高齢なのですぐに行ける場所にいたいという気持ちも出てきます。

地域側が求める医師は?

過疎地域で活躍する医師としては漫画、ドラマ化された「Dr.コトー診療所」が思い浮かびます。ドラマは2003年、2006年に放映されました。

主人公は外科医で島では子どもから大人まで担当していました。

一人で全年齢を診療できるのは医師歴7-8年以上ではないかと思います。まだ十分にみることができない若手には務まりません。できれば小規模の手術もとなれば外科医、ただ専門医取得後だとまだ手術研鑽を積みたい時期で、そこから外れては来れない状況かもしれません。

ある程度の経験とスキルがあり、専門研修、研鑽が不要になってくるとなると医師15年目以降の40-50代です。その頃は家庭を持っている、もしくは自分が持病が出てくる、親の高齢化で介護の心配も出てくるという社会的な問題もあります。

医師としての信頼ができる医師の年代に抱える問題もあるので、簡単に単身で地域医療ができるわけでもありません。

簡単に医師の何年かを地域医療に従事してください、ではうまくはいかないのです。

働く意思があっても、妊娠中や産前産後は自分の妊娠管理をしてもらう病院が見つからないかもしれない地域には赴任ができません。それは女医さん自身でも、夫と一緒に行く奥さんが妊娠となってもそうですし、生まれた子供の急病に対応できる医療機関が近くにないかもしれないですし、ただ医師が単身でいけばいいというわけにもいかないと思います。

将来的には?

先細りの医療を考えると、手っ取り早い対応策は今でもあるオンライン診療です。対面に勝るものはないでしょうが、オンラインでの問診、バイタル(血圧、脈拍、SPO2、体温)は一般家庭でも可能です。そこで受診が必要と判断されれば、車などで入院加療が可能な病院を受診するという形になるのかと思います。

1997年から厚生労働省は過疎地域の遠隔診療を認めています。その後、2018年に情報通信機器を用いた診療を「遠隔診療」と定義から、新たに「オンライン診療」と定義を変更されました。新型コロナウィルス感染拡大の際に「オンライン診療」は感染を心配して受診できない方でも受診できるという点で増えていきました。

厚生労働省の都市への偏在への対策はどう考えても医師の日本離れ、通常診療離れを引き起こすのでは?韓国のように自費診療の美容系へ医師が流れていくような事態が起きそうです。

今地域で頑張って踏ん張って診療されている医師も多いと思いますが、将来の地域医療をどうしたらいいか?

現場からもぜひ声をあげてください。

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