正常解剖と病理解剖について(医学生・研修医時代)~ドクターエッグスを読んで振り返る~

女医ママ
くまさん
女医ママ くまさん

医学生の頃の解剖学実習、研修医の頃の病理解剖ついての話になります。

医学部を目指す学生さん、医療・人体に興味がある方向けになります。

解剖には人体の構造を調べるための正常解剖、病死の原因を調べるための病理解剖、異常死亡の場合の原因を調べるための司法解剖と3つに分類されます。

今回は医学生で行う正常解剖について、また初期研修医の頃に病理解剖に携わったときの話です。

医学生の特殊な解剖学実習

医学生は解剖実習の中で、はじめて人体の解剖を通して臓器の観察をします。

おそらく親族が亡くなった際に少し顔を見たり、お別れで触れたりということがあるかもしれませんが、体の全身、そして内部をくまなく見る、触れるというのはこの実習が最初であり、かつ最後の可能性が高いのです。

この解剖実習については医療系漫画の1つ、山形の医学部に入学した青年の話で、ドクターエッグス2~3巻が実地に近い内容です。読んでみて本物の実習に近いと思いました。気になる方は読んでみるといいですよ。

解剖実習は何年生であるのか?

医学部は6年制です。大学で多少違いがありますが解剖実習は1~3年で行います。特に漫画と同じ2年生で行うことが多いです。医療の現場に出る実習は4年生以上が多いので、はじめに正常の人体の構造を学ぶ必要があります。低学年では基礎や生理学など体の正常を学ぶのです。

解剖学の実習より先に骨学実習があります。人体の本物の骨をみて、スケッチをして名前を憶えていきます。

こちらの骨学の実習は漫画でドクターエッグス1巻が該当します。

次に人体解剖学実習です。漫画では実習班は4人でご遺体1体の解剖を担当していますが、私の場合は6~7人でご遺体の解剖をさせていただきました。

献体は生前の申し込みで、家族の同意が必要です

外来の患者様で、献体をしたいと強く希望されている患者さまがいました。解剖学実習で解剖をさせていただくご遺体は献体からということは知っていましたが、どうやって献体をするのか?は知りませんでした。

こちらに検体を希望される場合の方法が記載されていました→(https://sougi.bestnet.ne.jp/common/kentai.html#:~:text=%E7%8C%AE%E4%BD%93%E3%82%92%E3%81%94%E5%B8%8C%E6%9C%9B%E3%81%AE,%E3%81%AF%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E7%97%85%E9%99%A2%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%9B%E3%82%93%E3%80%82 )より下記一部引用

献体をご希望の方は、生前から献体したい大学またはこれに関連した団体に名前を登録する必要があります。

住居地の都道府県にある医科大学(大学医学部)か歯科大学(大学歯学部)、または、献体の会にお問い合わせください。申し込み先は大学病院ではありません。
なお、献体登録にはご親族(配偶者 ・ 親 ・ 兄弟 ・ 子 ・ 孫など)の同意書が必要です。生前、献体登録をしておられても、死後、実際にその遺志を実行できるのは、ご遺族(肉親の方がた)であって、申し込み者本人ではありません。したがって、ご遺族の中に一人でも反対がありますと献体は実行されず、その遺志が生かされないことにもなりかねません。そのため、献体登録をする時にあらかじめ肉親の方々の同意を得ておくことが大切です。

本人の献体への意志が強くても、周りの家族の協力、同意がなければ献体ができないということになります。医学生が解剖学の実習ができるのは、強い意志で希望された患者さんとその意志を尊重したご家族の方により成り立つのだということがわかります。

家族にとっては献体によりお身体が実際に戻ってくるのに1年以上はかかるとなりますので、それまで待つというのが大変で、家族としての立場が自分だったら同意できるか?は悩ましいです。ご本人が亡くなられてから、ある時に実習でご遺体が解剖され、そして火葬、遺骨というまでに時間がかかり、納骨まで通常の死亡の場合は2カ月程度なところ、数年かかるということになります。

解剖学実習の期間は数カ月です

系統立ててご遺体の解剖をさせていただきます。教科書で見る平面の解剖の構造が3次元の本当の人体を目にすることができ、学ぶものがとにかく多かったです。

教科書は構造に色分け、図分けされていますが、本物の人体はどれが血管なのか、神経なのか解剖初心者の自分たちにはわかりにくく、解剖学実習の先生や助手の方を呼んで聞いたりもしました。

このときの自分は盲腸の位置もよくわかっていませんでしたが、実習を通して人体の臓器の位置や血管の走行が頭に浮かぶようになりました。

実習の度に同じご遺体と向き合うので、ご遺体には親しみを覚えました。私が担当したのは男性でご高齢の方でした。

漫画にもでてきますが献体は防腐目的にホルマリンを使用されているので、実習ではその匂いがついてしまうのです。食欲が出ないなど聞くこともありますが、そのようなことはありませんでした。

解剖慰霊祭への参加

正常解剖の献体に協力いただいた遺族の方、他の解剖に関した関係者の方々を招いた解剖慰霊祭というのが大学では年1回行われます。ここには実習をさせてもらった医学生たちも全員参加して、故人へ感謝をする場です。ここに参加して、解剖実習の完成だと思います。

ドクターエッグス3巻には慰霊祭のことも出ていました。解剖学のことだけではなく、慰霊祭についても出ていて感心しました。

個人の話:初期研修医では病理選択で病理解剖を経験する

病理に興味があり、医学部生でも初期研修医でも1カ月ずつ病理を選択しました。医学生のときには手術で出る標本の病理の観察もしました。そして初期研修医では病理室で当時興味があった腎臓、糸球体の病理標本を見たり、ご家族が死後解剖に同意された場合に行われる病理解剖も数回担当させていもらいました。

病死の原因を調べる病理解剖は、病院で患者様が亡くなられたときに病死の原因や拡がりを確認するために医師側からご家族さまに解剖をお願いする形です。同意がなければそのまま葬儀会社さんに連絡をして自宅に戻られたりとなるのです。

病理解剖では臓器の重さを計測し、目でみる肉眼的な所見を記載していきます。その後に病理標本を作成し、顕微鏡でみるミクロな所見が加わり、最終的な診断となります。

医学生さんや医師は聞くと思いますが、ある患者様が亡くなられて病理解剖されるとのちにCPC(臨床病理検討会)が開かれます。病理解剖された症例をもとに、患者様に関わった臨床の科、病理医らが一堂に集まり、その患者さんの医療を振り返る検討会です。

こういった検討がのちの診断、治療に大きくかかわっていきます。治療効果がどうだったがを肉眼的な見え方、顕微鏡的な所見からどうだったかと知るのが次につながっていくのです。

死後画像診断の簡便さ

ちなみに解剖ではなく死後画像診断を行う病院も施設によってはあります。これまで勤務した中にも死後画像診断が行える病院がありました。ご遺族にとっては死体に傷がついてしまう病理解剖よりも、傷がつかない画像検査に対しては同意されるケースが多かったように思います。

ご遺族に同意をいただくと放射線科へ連絡をして、病院によっては一般の方と一切出会わない裏のルートでご遺体を検査に搬送して遺体安置のお部屋に戻るケースもありました。

死後画像診断で病死ではなく事件性があったという内容で死後画像診断が有名となったのは、ベストセラーとなりドラマにもなった「チームバチスタの栄光」ですね。まだ読んだことがない方にはお勧めです。この作者のシリーズはいろいろと読みましたがこの作品が一番衝撃を受けました。

女医ママ
くまさん
女医ママ くまさん

先日ドクターエッグスを読んで、解剖学の実習や病理解剖のことを振り返りました。もし内容に不快に思われたら申し訳ないのですが、ご遺体には畏敬の念をもって、真摯に対応しています。医療では患者さんと対面する臨床医が表に立ちますが、基礎となる医学、支える病理学の先生にはもっと光を浴びてほしいなと思います。

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