漢方薬は処方してもらったり市販薬で購入していますか?
漢方医を標榜されている医師もいます。自分としては漢方医ではなく初歩的な学びになりますが患者さんに処方している漢方について紹介します。また腎臓内科医としての漢方薬処方の注意点も一緒に記載しています。
今回の話はマニアックなのかもしれませんが、漢方専門医ではない内科の処方が気になる方になるでしょうか?
この1年で私が処方したランキングTOP5を発表!
1位 葛根湯(風邪、肩こり) 2位 芍薬甘草湯(下肢つり、しゃっくり) 3位 大建中湯(腹満感) 4位 抑肝散(認知症) 5位 六君子湯(胃食道逆流症状) *( )内は症状です
1位 全員が知っているであろう葛根湯。風邪の初期で体力がある人向けです。肩こりにも有効で内服する方もいますね。葛根湯は乳腺炎にも有効とのことで肉芽腫性乳腺炎の診断がつく前には内服していました。
2位 芍薬甘草湯は透析患者さんへの漢方薬処方のナンバーワンでしょう。血液透析患者さんは透析中や夜間など下肢つりが起きやすく、下肢つりの訴えが多いです。そのため芍薬甘草湯は屯用でよく処方します。内服すると5分くらいで効いてきますが、効かない方もいますので、処方前にそれを伝えて効かないからといってもう一度内服はしないようにお話ししています。そしてしゃっくりにも有効です。
3位 大建中湯。こちらは高齢者の腹満や便秘に処方しますが、術後の腸管運動の活動低下時にも処方することがあります。
4位 抑肝散。イライラや気分が高まる方に処方します。中高年、認知症の方に処方するケースが多いです。
5位 六君子湯。ツムラの方からの説明会などで知り、逆流性食道炎症状で処方しています。
東洋医学は未病への治療ができる
西洋医学は病気に対して薬を処方するという考えですが、東洋医学はまだ発症していない病気の状態「未病」に対しても介入ができますし、体質改善に対して処方されることもあります。
私自身も昔アトピー性皮膚炎の治療のため、東洋医学を求めてお世話になりました。その際には処方がせんじ薬のため、やかんにかけて煮だして飲む手間と臭いがかなりきつくて続きませんでした。せんじ薬は生薬をオーダーメイドで配合できるので細やかな対応になるのでしょうが、若かった自分には無理でした。
今現在は医師として漢方について深く学ぶことはできていないので、対症療法としてエキス製剤の処方に留まっています。エキス製剤とは製薬会社さんが煎じ薬からエキスを抽出して粉などにしたもので、飲みやすくなっています。
あなたの漢方薬に甘草は?
漢方薬では注意すべき事項があります。漢方薬の半数以上に「甘草」という生薬が入っています。はじめに述べたTOP5のうち大建中湯以外の4剤には甘草が入っています。
甘草はその名の通り甘いので甘味として使われたり、漢方では調和薬として調合されます。甘草の摂取が多いと含有されるグリチルリチンの影響で「偽性アルドステロン症」を発症する可能性があります。そのため、複数の漢方薬を内服するときには甘草の有無をチェックしましょう。
浮腫や高血圧の原因は?
これまで2名の甘草による偽性アルドステロン症の患者さんを診療経験があります。
症例:80代男性 経過:高血圧で他院に通院していたが、2週間前に足つりがあり芍薬甘草湯を処方され、規定量より多く内服した。その後血圧の上昇、下腿浮腫が出現し、体重増加した。他院で利尿剤処方されたが改善せず、専門外来受診された。甘草による偽性アルドステロン症が疑われ、漢方服薬中止後に浮腫は軽減し、体重は元に戻り、血圧値も改善した。
だいぶ以前の症例なので少しうろ覚えの内容です。採血では血清カリウムの低下が起きることが多いです。
偽性と対比されるのが原発性アルドステロン症で、副腎皮質からアルドステロンが多く分泌されるのですが、両方とも似た症状(血圧上昇や低カリウム血症など)を起こすのです。偽性アルドステロン症は血液中のアルドステロンの値は上昇しません。
処方する側もされる側も、漢方の複数処方時に甘草には注意しましょうね!