モンスターペアレント、クレーマー、どんな職業でも人と対する仕事上、避けて通れないことがあります。医療現場はサービス業ともいえますので、患者さん、家族が顧客と考えるとカスタマーハラスメントに該当するかと思います。
今回は医療現場のカスハラがテーマです。同じくカスハラに困っている方向けです。
病院での困った患者さんとご家族
ある病院にいたときはモンスターペイシェントとはいかないまでも患者さんと犬猿状態となったり、家族に怒鳴られたり、迷惑電話がきたりとしたことがありました。私の体験エピソードを4つ紹介します。
患者さんよりその家族の方が怒鳴り散らしたりで対応が難しいですね~
外来主治医と入院の担当医が異なることは大学病院、総合病院ではよくあることです。外来で入院を決めた場合は時間がないと説明不足の状態だったり、通常の外来を介さずに緊急入院であると、患者さんとの付き合いが入院時はじめての担当医が対応することになります。担当医にとって、その患者さんはどのような背景、性格であるかはお話ししてみないとわかりません。
1例目:副作用が怖いと患者さんに怒られていまう→教訓となった
ある患者さんは長年通院されていましたが外来主治医からは特に問題はないと聞いていました。病気の活動性が増してきたので治療目的の入院が決まりました。入院日には入院時説明、そして早期に腎臓に関連した病気で免疫を抑える治療をする必要がありました。他のご家族がいらっしゃらないのでご本人に入院時説明として病気のこと、その合併症や薬の副作用について詳細に説明をしたところ・・・
そんなこわいこと(薬や病気の合併症)言われたってわからない。怖いことをいうな。もうあんたは来るな!
と主治医チームの班長である自分を拒否され、以後顔を出すと怒りを示すので、一切病棟でこの患者さんの前に出れなくなってしまいました。
思い返して入院時にもっと患者さんの不安に傾聴しながら話せばよかったと反省しました。外来主治医は患者さんとの信頼関係性を構築しており、同じような説明でも怒ることはなかったでしょう。信頼関係がないうえでの説明は受け取り方も変わります。
今では患者さんや家族さんにはじめに入院をどう思っているのかなど聞いたうえで多少入院についての気持ち、希望を聞いてから、入院時説明を行っています。
2例目:病棟内で大声で医者を出せ!と怒鳴る患者さん家族
入院後に患者さんの予後が悪いことを家族へ説明しました。その後に入院病棟のカウンターで大声で怒鳴る患者さんの家族がいました。対応した看護師さんが委縮し、半泣きになりました。
医者を出せ!こないだのこと怒っているんだ!
このときは男性上司で体格のよい医師が対応し、穏やかに傾聴した結果、怒りをおさめてご家族は帰宅されました。対応医とご家族は初対面ですが、上司であり、かつ見た目から信頼を得たのでしょう。
3例目:外来はじめての患者さんのご家族から後日怒りの電話がきた
外来で他の科から腎臓やカリウムの値が悪いので見てほしいとの依頼で高齢の患者さんの診療をして、次回予約をして帰宅後、後日病院に家族から電話が来ました。
予約票をもらわなかった。謝れ!次がわからなかったらどうしてくれるんだ
予約票をお渡ししたと思いますが、もともとかかりつけの科がありますで次回予約をその科の受診に合わせると伝えましたよ。
そんなの聞いていない。とくかく予約票がないんだ。どうしてくれるんだ!謝れ!
私はお渡ししたと思っていますので、謝ることはできません。渡したか渡していないかは確認がとれませんが、もともといた科の紹介でいらっしゃって、そちらに戻るようにとその受診日を合わせることはご説明していますよ。
電話の受け手の自分も理不尽な要求に対して、ヒートアップしてしまいました。
次の患者さんの再診は別の医師の外来日でしたのでその医師にトラブルについて説明し、外来のクラークさんにもお話しておいたため再診時のトラブルはありませんでした。
4例目:電話で自分の仕事を傘にして言い分をいう患者さんのご家族
救急外来の病院の当番をしていたときに、通院中の方か初診かわかりませんが受診相談の電話がかかってきたときに応対しました。たいてい救急対応などで受診されてもお待たせすることがあるため、それを承知した上で受診してくださいとお話ししています。
区議会議員の秘書をやっているんだ。待たせるとは何事か?診ないのか?
診ないということではありませんが、病棟や外来の患者さんを診ておりますので重症の方がいると診療するまでに時間がかかること、お待たせすることがあります。
その自称秘書の方は結局来院されませんでしたが、患者さんに肩書は不要なので身分を振りかざされると逆にお断りしたくなる心情です。しばらく秘書はとんでもない、許すまじと自分でも怒っていました。
あるあるパターンは女性、若い、弱そうな医者へのクレーム
あるあるパターンは初期研修医の先生、若い女性医師が担当すると強気でわがままをいったり、高圧的な患者さんが、少し年上や背格好が大きい男性医師に対応してもらうと途端に態度を変えるなんてこともあります。
担当医の初期研修医の先生に患者さんへの説明に同席をしてもらったときに、患者さんの将来にかかわる重要な説明でしたが初期研修医の先生が居眠りをしたため患者さんから大クレームがあり、患者さんの担当から外れる事態になりました。患者さんへの説明は話している医師が寝ることはありませんが、同席している医療者は居眠りをする可能性があります。逆に患者さんや家族さんが居眠りすることもあります。居眠りした先生にはこれを肝に銘じてほしいこと、患者さんは真剣でその生死にかかわる場面でどうしても眠気が強いならばいったん退席することも考えなさいと話しました。退席も失礼ですが、居眠りの方が失礼に過ぎますから。
また外来の待ち時間が長いと入ってくるなり怒る患者さんは多いです。教授クラスには怒ることは見られないので肩書で弱い立場の医師には怒っていいと思っているのでしょうか?
できるだけ人数を揃えて対応を
起きてしまえば対応するしかなく、それを繰り返さないためにも慎重に考えます。
トラブルについては時系列で書き出しましょう。カルテでトラブルがあったこと、その内容については簡単に共有できるようにしておきます。
病院側でも医療安全サービスの部門と連携をして、トラブルになる場合には患者サービス室の担当者に立ち会ってもらったり、ICレコーダーで会話を録音することなど危機対応をしています。
入院中にトラブルになるとそのチームの班長、病棟長、師長、さらに教授クラスや外来主治医を交えて患者さんやご家族は抜きで事前に話し合いをします。こういう話し合いは1時間近くかかりますが、対応や方針を決めたうえで、該当の患者さんやそのご家族さんと同じメンバーで話合いをします。ただ医療者側が大勢ですと威圧的ですので、担当医、班長、(上司の医師、)師長が同席の上で話し合うことが多くなります。
小さな規模の病院ですと人数もそろわないので医師、看護師、事務さんなど内輪の人員になりますね。ただトラブル相手と1体1で対峙はしないようにしましょう。
外来診察室は不審者対応ができる構造がよい
これまで外来をしてきた病院では患者さんを呼び込む入口と医療者側が出入りできる廊下側とがあって、不審者なり何かあれば医療者は廊下側に逃げることができるようになっていました。
昨年身内の付き添いである大学病院に行ったときに、外来診察室が小部屋で入口は1つしかなかったので緊急時に大丈夫かな?と心配になりました。
昨今、病院で患者さんとのトラブルで火災( 2021年大阪での精神科クリニックの放火事件:https://www.sankei.com/article/20220616-RNU6JNEZQZO47GPOQNVIX5WEZE/)や刃物によるトラブルの事例もありますので、医療者側の身を守るために、外来や病院の構造が配慮してほしいと思います。
クレームが怖くなり解決のための本を探す
大病院にいたころ、弱気になってクレーム対応についての本はないかと探した結果、医療現場のトラブルについて書かれた本「患者トラブルを科解決する技術」とその続編を購入しました。脅しに屈してしまわない、相談するなど、トラブルバスターの筆者の本を読んで、多少なりとも落ち着きました。
本の中からまさにこれ、という部分を一部抜粋して紹介します。いろいろと参考になり、トラブルのときはこの筆者に聞きたい!と思うほどでした。
原因がはっきりするまでは、非を認めるような言動は避け、「よく調べてから返答します」と答えること。
あくまでも医学者として冷静に原因を追究し、落ち度があれば潔く認めて、謝罪するという覚悟も必要。
信頼関係修復が難しい場合、相手としっかりコミュニケーションをとって、「診療には医師と患者の信頼関係が必要ですが、残念ながらその関係が崩れてしまったみたいですね。もしよろしければ、他院を紹介しますがいかがですか?」と他院を紹介してソフトランディングを目指す。
トラブルの初期段階では、とにかく相手の主張に耳を傾ける。初期段階では話を聞けば聞くほど火は静まり、反論すればするほど火は燃え広がる。
患者トラブルを解決する「技術」
今はトラブルは軽減 備えあれ!
先の本のように、とにかく自分の意見を話すよりも相手の話を聞く、その姿勢がトラブル回避には必要です。
そして最近は自分の医者経歴も長くなって、怒鳴られたりというケースはめったになくなりました。先に患者さんやその家族さんがどのような方が相談員さんが教えてくれるのも助かっています。
もし悩んでいる場合には危機管理を担当する部署に相談したり、一人で立ち向うのは避けましょう。
誰しも怒鳴られたり怒られたりは嫌ですね。
それが理不尽であると自分の正当性を言いたくなりますが、まずは聞くことを胸にしています。